文化的価値が高い既存建物の外壁保存構法を開発し大丸心斎橋店本館に初適用
2020年4月1日
株式会社竹中工務店
竹中工務店(社長:佐々木正人)は、建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの代表作として歴史的文化価値が高い大丸心斎橋店旧本館の既存外壁を、現位置に保存しながら内部に新本館を建設後、再び接続・保存活用するための外壁保存構法(特許出願済)を新開発し、「大丸心斎橋店本館」の工事に初適用しました。
既存建物の外壁保存構法の開発と適用
保存外壁は、旧本館の柱梁と一体化した鉄筋コンクリート造の壁に、1~2階が石、3~5階がタイル、6階が擬石で仕上げられており、しなやかな鉄骨造の新本館と一体化するには、地震時などの外力による変形追従性能を向上させる必要があります。
開発した外壁保存構法は、保存外壁の背面に補強躯体を設けた上で、外観上目立たないように仕上げが切り替わる3階・6階レベルで保存外壁を水平切断し、切断部に免震装置(弾性すべり支承)を設けて新本館に接続させる機構です。これにより、地震時に保存外壁は、新本館の動きに合わせてスライドする機構としています。
さらに、外壁の劣化及び損傷の状況について、ひび割れ計測と高精度赤外線解析による剥離部の検出を行った上で、調査結果を踏まえ、タイルでは12万枚のうち約90%を保存しました。また、各仕上材に約12.5万本のステンレスピンにより原則全数ピンニングして躯体と緊結することで、安全性を確保しています。
施工時には、保存外壁が自立できるように、コの字型に2スパン分の奥行きを残して内側の既存建物を解体し、その後、新築の鉄骨工事を進めて、保存外壁の支持を新築躯体に盛り替えながら、残していた既存躯体を解体していくという施工手順で進めました。
明治・大正期に建設された歴史的建築物は、外壁の仕上げの切替りが特徴的なものが多く、今回開発した既存外壁保存構法を適用できる可能性が高く、内装の保存技術と組み合わせ、既存建物の保存の可能性を高めることができます。
当社では今後も、歴史的価値の高い建物・芸術品の保存と活用に努め、まちの文化的価値の向上に貢献していきます。
保存・建替計画
1.旧本館の概要
旧本館は1922~1933年にかけて、ヴォーリズ設計、当社施工により建設されました。心斎橋筋側のネオ・ルネサンス様式、御堂筋側のネオ・ゴシック様式の外観に加え、天井のフレスコ画やレリーフ、ステンドグラス、照明など随所にアールデコの装飾が施された内装により、ヴォーリズの最高傑作と謳われる名建築でした。
しかし、完成から約90年を経て建物の安全性や機能面での課題などを抱え、今後を見据えた旗艦店舗としての競争力の向上、さらには心斎橋地区の新たなにぎわい創出や活性化のため、建替えを行うこととなりました。
2.新本館 建替計画
建替に際し、歴史的建築物の価値の継承について、有識者を交えた保存検討委員会により、既存建物の保存方法や新本館の意匠方針が検討されました。その結果、以下の基本方針が決定されました。
- (1)リヴォーリズの設計による戦前の全体像を留めており特に歴史的価値が高く、市民に親しまれてきた御堂筋の風格ある街並みを継承するため、御堂筋側外壁を原位置に保存し、内装についても保存利用できる部材を抽出し活用を図る。
- (2)外壁の保存範囲はヴォーリズの設計が現存している御堂筋側とこれに連続する南北の大宝寺通側、清水町通側の4スパンとし、保存外壁を除く内部建物は解体し、地上11階建て、高さ約60mの新本館を建設する。
- (3)新たに追加される高層部は、保存外壁の石の透かし彫り等に見られるヴォーリズデザインの特徴の一つでもある幾何学パターンの反復意匠を継承し、その幾何学デザインをモチーフにした外装スクリーンのパターンとし、外壁面を保存外壁よりもセットバックさせ、保存外壁と景観的調和を図る。
3. 再利用・復原による店舗内装の継承
解体工事(2016年1月~2016年12月)では、まず保存対象となる内外装材を調査・採取し、3Dスキャナー等による詳細調査や現物採取を行い、採取した保存品は、産地や製造記録、実測図等を調査記録シートにまとめて記録し、写真、管理番号で保存品の記録・管理を徹底しました。
解体時に採取・保存した1,254パーツのうち、849パーツには洗いや表面修復・下地補修などを施し、1階メインフロアを中心に、天井やエレベーターホール、階段などに再利用しました。旧本館で使用されていた部材を再利用・復原して内装デザインを継承しながら、新しい鏡面天井で復原部分を映し込むなど、新旧のデザインの相乗効果を図っています。
新築工事概要
建物名称 | 大丸心斎橋店本館 |
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建築地 | 大阪市中央区心斎橋筋 |
建築主 | 大丸松坂屋百貨店 |
建物用途 | 百貨店 |
階数 | 地下3階 地上11階 塔屋 1階 |
建物高さ | 59.87m |
建築面積 | 5,631.51 m2 |
延床面積 | 66,367.87 m2 |
構造種別 | 地下S,RC,SRC造(柱CFT造) / 地上S造(柱CFT造) |
工期 | 2017年1月~2019年8月 |
基本設計/監修 | 日建設計 |
実施設計/監理 | 竹中工務店 |
施工 | 竹中工務店 |
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