Column

都市でカーボンニュートラルを
達成するための3つの戦略

私たちが目指している2050年のカーボンニュートラル社会、それが実現した都市や建築は、どのようになっているのでしょうか。竹中工務店設計部では、未来の都市や建築のあり方を考え、発信する活動を行っています。その中から、カーボンニュートラルに関するテーマをピックアップし、ご紹介します。2050年のまちを思い描きながら、ご覧ください。

「建物単体」ではなく「都市レベル」で考える

  • 2050年にカーボンニュートラルを達成するためには、建物単体でのZEB化(ゼロエネルギー化)やライフサイクルCO2ゼロなどの取り組みが不可欠です。しかしそれだけでなく、都市レベルでも考えていくことも必要です。都市レベルで達成するためには、建物だけでなく、そこで過ごす人の快適性や行動、気候変動などの社会課題まで考慮しなければなりません。今回ご紹介するのは「2050年に都市でカーボンニュートラルを達成するための3つの戦略」です。竹中工務店設計部では、これらを段階的に進め、「人」中心のまちづくりという視点を考慮しながら、都市レベルでの達成を目指していきたいと考えています。

<3つの戦略>
[1]「環境地区計画」により、街区や建物の配置を整える
[2]窓や扉の開閉を、都市単位でコントロールする
[3]都市のデータを活用して「人の行動」を促す
ここからは、実際の都市を想定しながら、3つの戦略案をご紹介します。

戦略[1]「環境地区計画」により、街区や建物の配置を整える

  • 建物の配置や規模を都市レベルで整えると、「風」や「光」などの自然エネルギーは、建物単体で考えるよりも効率的に活用できます。例えば、細いビルがこまごま建っていると、風や光を活用した省エネは十分に発揮できません。それらを集約したり、配置を整えたりすることで、まち全体で風と光の恩恵を受けられるようになります。さらに、緑地のような、まとまった公共空間を整備することもできます。エネルギー性能や環境を考慮した、このような地区計画を、私たちは「環境地区計画」と名付けて提案しています。

戦略[2]窓や扉の開閉を、都市単位でコントロールする

  • 街区内の建物の配置だけでなく、建物の換気や採光も都市単位で連動して行おうというのが、戦略[2]です。季節や時間帯で変わる風や光を捉え、街中の扉や窓の開閉をコントロールしたり、太陽光を反射するルーバーの向きを調整したりします。
    光環境や風の流れは、日々刻々と変わります。
    夏は扉を開けて風を通し、日射を空に反射して熱を貯めない
  • このように、季節や時間帯に合わせたコントロールが理想です。
    例えば、夏の午前中、A建物で窓を開けても、手前のB建物がブロックして風が入ってこない…結果、A建物はエアコンをつけなければならない、という状況があるとします。そんなときにAもBも窓を開け、一体となって自然換気できれば、冷暖房などのエネルギー消費を抑えられそうです。

戦略[3]都市のデータを活用して「人の行動」を促す

  • まちの中の快適な場所を人々に伝え、屋外へ導く「仕掛け」を作るのが戦略[3]です。例えば、暑い夏の日に運動しようと思っても、外は暑いし車は多い…。結果、エアコンの効いた建物の中でじっと過ごしてしまう…。
    人々が屋内に閉じこもると、その都市排熱によってさらに都市が熱くなってしまいます(ヒートアイランド現象)。このような悪循環を解消するため、データを活用しながら、下記の2つの工夫で人々を誘導します。
  • 1 街区の中に快適スポットを作る
    戦略[1][2]で、建物の配置を整備したり、扉の開閉などをコントロールしたりすることで、光や風のエネルギーを効率的に活用できるようになり、まち全体の快適性が高まります。さらに、くつろげるベンチなどのストリートファニチャーや、アクティビティイベントなどをプラス。こうすることで季節や時間帯に合わせた「快適スポット」を作り出し、人々の行動を誘発します。
  • 2 快適スポットを人々に伝え、屋外の快適な場所へ導く
    変化する「快適スポット」を観測し、スマホなどで把握できるようにします。「今はここ」「夕方はここ」と屋外に出た人々が屋外の快適な場所に自然にたどり着くように、都市のスイッチを切り替え、人の行動を促します。

「人」を中心としたまちづくりと、カーボンニュートラルを両立させる

  • 竹中工務店東京本店が位置する東京都江東区を例として試算してみると、江東区全体のCO2排出量は、2016年を100%としたとき、2050年には75%減となりました。この75%減のうち10%が「(今回ご提案した3つの戦略によって)人々が屋外で過ごす時間が2割多くなった結果」によるものです。
  • 「どんな建物にどんな設備をどう設置するのか」それはカーボンニュートラルの実現にとって重要なことです。しかし「そこで過ごす『人』は快適か」というのも、抜けてはならない視点です。カーボンニュートラルの実現は、人中心のまちづくりと合わせて考えていくことが重要です。竹中工務店設計部では、この視点を大事にし、「人」「建物」「都市」のありかたに幅広く提案を行っていきます。
竹中技術研究所研究トピックス