2025年4月から開催される大阪・関西万博に向け、大阪夢洲の万博予定地が4つの工区に分割され、竹中工務店JVは2023年4月に着工しました。万博の目玉施設である木リングの1/3を含む、博覧会協会発注の施設の施工に関する総責任者である河井総括作業所長に、作業所での取り組みについて話を聞きました。
PROFILE
河井 辰巳
株式会社竹中工務店大阪本店 大阪万博リング西工区作業所 総括作業所長 (2024年1月現在)
1989年入社、2017年から技術部長、工務部長を経て、2023年より現職。
*部署名・役職・インタビュー内容は2024年1月現在のものです。
職人さんに優しい環境づくり
昨年4月の着工後、本作業所では環境に優しい取り組みや働くひとに優しい取り組みがいくつか発信されています。先ずは、職人さんに対する配慮についてお聞かせください。
河井:「私がこの作業所で取り組んでいることは、万博だから特別というわけではなく、今までの作業所勤務の経験でやってきたことの中で良いと思ったことをしているだけです。竹中工務店は建設を生業にしている会社で、その建設を担っているのは職人さんです。職人さんを大事にするというのは、私が会社に入ったときからの基本姿勢です。その中で特に今回は自分の想いを実現するためにも、徹底的に職人さんが働きやすく、いい仕事をしてもらえる環境を提供しようと思いました。」
具体的にどのような取り組みをされていますか。
河井:「着工した時点で、電気、上下水道、通信などのインフラが整っていないという過酷な環境でした。これでは職人さんが働きにくく、良い仕事ができないと思いました。そこで先のインフラも整備することは当然ですが、加えて環境整備の一環として、コンビニエンスストアを作業所事務所内に誘致しようと計画し出店を実現させました。コンビニエンスストアは現代社会では重要なインフラの一つだといっても過言でないと考えており、今ではここの作業所で働く職人さんや職員にとってもなくてはならないものになっています。」
河井:「次に作業所のトイレについてです。昔は作業所のトイレは汚なく、夏は暑く、冬は寒いということが当たり前でした。当作業所では、トイレは綺麗に・快適に!をモットーに整備しました。ウオシュレットの完備は当たり前ですが、きちんと空調も整備しました。さらに、お昼休みに職人さんが横になって、ゆっくり休憩できる“畳敷き”の休憩スペースや仕事終わりに汗を流せるシャワー室も完備しています。職人さん目線での環境整備に力を入れています。」
職員に優しい環境づくり
職人さんと連携して、この一大プロジェクトを推進している職員に対してもいろいろな取り組みをされていると思います。具体的にお聞かせください。
河井:「先ずは作業所の環境づくりですが、木構造のリングで大量に木材を使用している作業所なので、工場製作で発生する不要端材などを再生させ、この会議室のテーブルや内装材、屋外ベンチなどに活用し、木の香りや温もりを感じられる作業所空間を作っております。また若手の社員が多いため、施工の技術面だけでなく作業所を安全に気持ちよく働けるように運営するための心構えについても諸先輩方から教えられたことを自分なりに取捨選択しながら伝承しております。」
建設業でも本年4月から残業時間の上限規制が始まります。作業所として、何か取り組まれることはありますか?
河井:「作業所としては、今までも残業時間を減らす取り組みはしていますので4月から新たに始めるものは特にありません。時間削減のため、グループ制で時間管理を行うような仕組みをつくり時間削減に努めています。3~4人のグループで仕事のスケジュールや休日を常に共有・調整できることで、一人ではなくグループ全体の互助精神で時間管理を行えるようにしています。代休を取得する前には、引継ぎなどコミュニケーションが必須になりますし、お互いがどんな仕事をしているかも分かりあえるため、仕事のやりかたやノウハウなどの伝承にもつながります。作業所内で密なコミュニケーションをとり、休日も取得することで、モチベーションもアップするという好循環を生み出したいと考えております。」
万博に向けての想い
万博開幕まで約1年3か月となりました。世論は決して歓迎ムードとは言えず、また能登震災のこともあり、順風満帆とは言えない状況ですが、準備を進める最前線の責任者として、万博への想いをお聞かせください。
河井:「今の報道など見ても、万博開催への反対意見や消極的な意見も多いですが、そのような世の中の流れに迷うことなく、しっかりとしたものづくりを行うことが我々の最大のミッションだと思っています。特に、ここで働いている職人さんや職員が、後から働きやすく、良い作業所だったなと思ってもらいたいです。また作業所に視察に来た人が、やっぱり竹中さんはちょっと他と違うねと気づいてもらえるような仕事のやり方を心掛けています。特に今年は来場されるお客様たちの目に触れるところを仕上げていきますので、細部にわたって少しでも竹中らしさを感じていただけるよう、ものづくりを行っていきます。開幕後は世界の人々が数多く万博会場に来場し、盛況になってほしいと思います。」
世界に対する発信も重要ですね。
河井:「来年の今頃は開幕直前です。万博会場が出来上がったら世の中の流れも少しは良い方に変わると思っております。万博の閉会後は残念ながら建物は解体されることになっているので建物自体は残りません。作業所でものづくりをやっている者としては、かたちに残らないものの、少しでも人々の記憶に残るものにしたいです。万博って、こうやって苦労して作ったんだということを関係者が後から振り返れる記録としても残したいです。最後に世界に対する発信とはいかないまでも多くの方々に、この万博工事の記憶が長く刻まれるといいなと思っております。」