コラム

西日本機材センター 開発グループ 永田グループ

職人にとっての“ドラえもんのポケット”になりたい

竹中工務店 西日本機材センター 開発グループ 永田グループ長インタビュー

2024.07.09

大阪・関西万博で竹中工務店が施工を担当する作業所では、生産性の向上を目的に、各種建設ロボットやITシステムの導入などの建設DXを推進しています。その中心的な役割を担う西日本機材センター開発グループの永田グループ長に話を聞きました。

PROFILE (2024年7月現在) 永田 幸平 株式会社竹中工務店大阪本店 西日本機材センター 開発グループ グループ長
2005年入社、2006年から西日本機材センター配属後、2010年大阪本店作業所、2013年より技術研究所、2020年より現職。
*部署名・役職・インタビュー内容は2024年7月現在のものです。

建設現場で使われるツール(道具)を開発。ドラえもんのポケットからでてくるような、職人さんらの作業を助けるツールをつくる。

永田グループ長 インタビュー時の写真

多くの建設ロボットを開発されていますが、どんなコンセプトでつくっていますか?

永田:大前提として、建設ロボットの開発ということではなく、建設現場で使われるツール(道具)を開発するという考え方で進めています。例えて言うなら、ドラえもんのポケットから出てくるような、便利なツールをつくっていこうと。職人さんらの仕事を奪うロボットではなく、職人さんらの作業を手助けする、サポートするものであるべきと思っています。

永田さんがつくるツールは、今までにないものが多いと思います。どんな時に思いつきますか?

永田:自分が所属する西日本機材センターという組織は、工事を行う作業所に近い位置にいます。作業所に行くと、必ずと言っていいほど、こんなことできないか?こんなものはないか?と声をかけられます。その課題を解決するための方法を提案するのですが、既製品で解決できそうであれば紹介しますし、なければ、新たなツールをつくるようにしていますので、思いつくというよりも、作業所のニーズから発想している感じです。

作業所の課題を解決するようなツールをつくる際に苦労している点はありますか?

永田:課題を解決するツールを直ぐにつくれることは殆どありません。先ずはプロトタイプを作業所に持ち込んで、使ってもらいながらブラッシュアップしていきます。改良を重ねながら作り込んでいくイメージです。

その意味で、この大阪・関西万博の作業所で取り組んでいることはありますか?

永田:一番力を入れているのは、ドローンによる工事資材の運搬です。万博会場はとても広く、またいろいろな種類の建物が同時進行で施工されています。いろいろなニーズに合わせるために、3種類のドローンを導入して、各種実証実験を進めています。具体的には、屋内用ドローン、大屋根リングなどの点検用ドローン、建設資材搬送ドローンになります。近い将来必ず当たり前になるであろうドローン技術をこれからも積極的に活用展開していきます。

大屋根リング上部への建設資材搬送用ドローンと運用メンバー
大屋根リング上部への建設資材搬送用ドローンと運用メンバー

ツールを効率的に運用するソフトの部分にも新たな仕組みづくり、ロボ工制度の立ち上げ。

永田:私たちが開発しているツールや、世の中にあふれている数々のITツールを使いこなすところに課題がありました。作業所で施工管理している当社社員らが、これらの新しいツールを使いこなすには、時間と労力が必要となります。そこで、それらを専門に扱う人材を「ロボ工」として各地の作業所に派遣する仕組みを考えました。先ずはこの万博作業所でいろいろ試行してみて、全国に広げていきたいと考えています。

各種建設ロボットとそれらを運用する“ロボ工”メンバー
各種建設ロボットとそれらを運用する“ロボ工”メンバー

他産業や海外建設市場への展開

最近では、韓国はじめ海外の建設市場へのアピールもされています。反応はいかがですか?

永田:先進国を中心とした海外の建設現場でも生産性向上を目的に、ITツールの導入が進み、また建設ロボットの導入の機運が高まりつつあります。特に韓国では、当社らが開発した、タワークレーンの遠隔操作システム「TawaRemo®」の活用も始まっていますし、今年はシンガポールでの建設DXイベントを開催予定です。米国でも一定のニーズがあり、ビジネススキームの検討中です。

永田:また、建設分野以外の工場などでも活用したいとの声が出てきています。例えば、昨今、工事中の二酸化炭素発生量を手間なく計測および記録するツールとして、“どんだけ”という、二酸化炭素発生量のセンサーシステムを工場のラインで活用したいとの要望をいただいています。カーボンニュートラルへの取り組みは、全産業で求められているので、今後のPR次第では広く水平展開できるのではと感じています。

“どんだけ”のPRパンフレット
“どんだけ”のPRパンフレット

建設現場で活用できるツールは、他の産業でも活用できるという良い事例ですね。

永田:建設現場では、ハード面では過酷な環境下で壊れることなく動くことが求められ、またソフト面では、手間なく運用できることが求められます。“どんだけ”も、従来は各種建設重機の二酸化炭素発生量を手入力で記録していたものを、センサーだけを設置して、クラウドで自動集計する仕組みとして、全国の工事現場に200台ほど普及しています。今後はその運用をロボ工が担うことで、ハードとセットでの普及展開につなげたいと考えています。

開発ツールへのこだわりのネーミング

永田さんがつくりだすツールには、個性的なネーミングが多いですね。その心は?

永田:先ずは、職人さんらに愛されるツールにしたいので、誰もが直ぐに覚えられて、口に出しやすいネーミングを意識しています。例えば、クレーン車の周辺に設置が必要なバリケードでは、クレーン本体に取り付け可能なバリケードを開発して、“サクッとバリケード”と名付けました。簡単に、設置でき移動も可能な、柵(サク)もかけているのでイメージできると思います。

印象的なネーミングは、いわゆるロボット業界の技術者にも、建設業界に目を向けてもらうキッカケになると思います。

永田:普通のメーカーさんですと、このような個性的なネーミングでは最終決定までいかないと思いますが、竹中工務店ではいくつもの個性的なネーミングが通っている実績があります。是非、協業して、職人さんらの助けになるツールをこれからもたくさん作っていければと思います。

“永田グループ長が名付け親の主なツール
“永田グループ長が名付け親の主なツール

大阪・関西万博に来場するお客様へ

最後に、来年の大阪・関西万博では国内外から多くのお客様が来場されます。メッセージなどありましたら教えてください。

永田:これまで、当作業所では様々なDXツールの実証をしてきました。実証だけで終わるのでなく、いつか当たり前になると未来を創造し、建設現場として開発活動を続けていきたいと思います。完成したパビリオンなどを見ていただくことだけでなく、そこまで至ったプロセスもぜひ創造、感じていただきながら、楽しんでいただけたら嬉しいです。細かいところにもこだわりを持ってつくっていますし、万博施設は閉幕後に解体・リユースされるので、その建設プロセスをしっかり記録として残していければと思います。

来場されるお客様には、その建設プロセスを広く公開している「竹中工務店の万博特設サイト」をご覧いただいた上で、万博会場に足を運んでいただけたらいいですね。
本日はありがとうございました。

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