平成の大修理 唐招提寺金堂
古代を読み解く保存修理
日本の伝統的な木造建築では、屋根の葺替えや解体修理を適切に行うことで、現在まで保存継承されています。柱や梁など多くの組物を解体して改修できることは、西洋建築にはない、日本の木造建築の大きな特徴です。唐招提寺金堂は8世紀末に建立され、江戸期及び明治期に大規模な修理がなされてきました。
今回の修理は柱の内倒れや軒先の垂下を防ぐ構造補強に主眼を置き、その問題を解決するため構造解析技術提案コンペが実施され竹中工務店案が採用されました。保存修理工事を行う奈良県文化財保存事務所に協力し当社は構造解析・構造補強設計を担当しています。
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伝統の技
日本の伝統建築は、定期的に屋根の葺替えを行い、併せて必要に応じた修理・補強を施すことで現在まで保存継承されています。
解体修理は建物の保存だけでなく古人の技術を再確認して次の時代に伝承する機会とも考えられます。国宝である古代木造建造物への現代構造解析技術の適用は画期的なことであり、最新の構造調査・実験・解析技術を駆使して、古代の技の解明に挑みました。その結果「国宝・唐招提寺金堂の保存修理における構造解析を中心とした科学的手法の展開」が2010年日本建築学会賞(技術賞)に選ばれたことは、今回の考え方とその成果が評価されたものといえます。
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構造調査・実験
今回の構造解析と補強設計のための調査・実験は、屋根荷重測定、基壇版築層の解体前レーダー探査や解体時の載荷試験による基礎構造の確認、常時微動計測による建物および地盤特性の把握と耐震性検討への利用、解体前木材打撃試験や解体材料試験による古材物性値の検証、実大の斗組加力試験とめり込みクリープ試験の補強解析へのフィードバックなど多岐にわたりました。
唐招提寺金堂の常時微動測定結果
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木材打撃試験
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斗組加力試験
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構造解析
構造解析には右図に示すモデルを用いました。今回の構造補強が1200年の歴史の中でどのように位置づけられるのかを確認するため唐招提寺金堂の創建時からこれまでの構造架構の変遷を現代の解析技術で見直すことから始めました。
8世紀末の創建以来、幾度かの改修によって外観に大きな変更が加えられています。
深い軒を支える構造材が創建時は地垂木だけであったものが、元禄の改修では、桔木(はねぎ)が新たに追加されました。また柱の間には貫等が加えられ、内倒れがかなり深刻であったことを物語っています。
金堂の重厚な屋根のイメージは元禄の改修によるものであり、天平の軽やかな屋根はこの時に約2m高くなり、屋根が大きくなりました。勾配をきつくして雨水の排水性を高め外観を大きく見せることと合わせて、桔木補強の必要性によることが指摘されています。明治の解体修理では本来の形に戻すべく柱間の貫等を撤去し二段桔木や当時の最新技術である洋小屋および鋼棒タイバー等の補強が施されています。
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構造補強
修理前の架構解析変形を示す下図を見れば、この架構の弱点は明らかでしたが、奈良県文化財保存事務所の文化財修理技術者との検討を重ね、内倒れ補強では、空葺きによる軒荷重の低減と、内倒れが生じる建物両側の水平力を相殺する方杖機構を屋根裏に組み入れることで、当初架構と明快に分離された補強システムを採用しました。また、入側天井に水平トラスを設けることで耐震性に配慮しています。
竣工時の計測により、解析の予測通りに内倒れ変形が12cmから4mm位と大幅な低減が確認されたことにより、構造解析の有効性が建築関係者の枠を超えて広く認識されました。
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プロジェクト概要 |
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建築主 | (宗)唐招提寺 |
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建築地 | 奈良県奈良市五条町 |
修理設計 | 奈良県教育委員会文化財保存事務所 |
構造 | 木造 |
階数 | 地上 1階 |
規模 | 桁行 7間(28.01m)、梁間 4間(14.63m) 一重、寄棟造、本瓦葺 |
高さ | 15.66m |